こんな疑問に答えます。
本記事の内容
- リスクアセスメントとは?
- リスクアセスメントの考え方
- リスクアセスメントの進め方とポイント
リスクアセスメントも何度も実施してきました。
リスクアセスメントを始めたての人のよくある悩みとして、「いまいち進め方がわからない」という点があると思います。
私自身リスクアセスメントを行った時に、評価基準はあるけれどどう評価していいのかがわからずにかなり悩みました。
適当に評価して、後でその労災が起きてしまったら困るし、厳しく評価したら全てが危険になってしまうし…。
どうすれば良いの?といった具合でした。
そんな具合で、色々と悩みながら進めてきたので悩むポイントもよくわかります。
その解決方法を解説したいと思います。
目次
リスクアセスメントとは?
リスクアセスメントとは、労働災害を未然に防止するために行うためのツールで、広く活用されています。
非常に簡単に言ってしまえば、リスクアセスメントとは次の3つを行うことで災害の発生を防ぐものです。
リスクアセスメントの流れ
- ①:「災害が発生しそうな危険なポイント」を洗い出す。
- ②:評価して点数をつける
- ③:点数順に対策する
このリスクアセスメントの中で知っておきたい考え方があります。
従来は『絶対安全』という考え方で「安全とは危険でない事」というものでした。
次のようなイメージです。
しかし、現実的にはどんな場所でも転んだりすれば怪我をする可能性があります。
だから、現実的には絶対に安全な状態など存在せず、次の3つに分類されます。
- ①:受け入れられるリスク
- ②:条件付きで受け入れられるリスク
- ③:受け入れられないリスク
このように安全と危険(=リスク)は常に大小の関係で成り立っています。
その中で、現実的にどこまでのリスクを受け入れていくか?を考えていかなければなりません。
全てを①の「受け入れられるレベル」に持っていければ最高ですが、現実的には②とするしかない場合も多いです。
しかし、③の部分はとても受け入れられないので早急に対策が必要です。
このようにして、受け入れられるリスクの大きさを決めて、受け入れられないリスクに対策を施していくのがリスクアセスメントです。
ペットを飼うことで例えてみます。
例
- 気性の荒いネコ
- おとなしいトラ
一緒に暮らす場合のリスクを考えてみます。
ネコは気性が荒くても、引っ掻かれてもそんなに問題ないので①の「受け入れられるリスク」です。
トラはおとなしくても、もしもの時は食べられてしまうので③の「受け入れられないリスク」です。
その対策として、オリを準備すれば食べられる心配がなくなるので一緒に暮らせます。
つまり、「オリ」が対策で②の「条件付きでOK」になります。
リスクアセスメントの進め方
では、具体的な進め方とそれぞれのポイントを解説します。
次の4つのステップを踏むことでリスクアセスメントは行われます。
リスクアセスメントの進め方
- ステップ①:リスクを特定する
- ステップ②:リスクを評価する
- ステップ③:リスクを低減する
- ステップ④:対策後のリスクを評価する
用意するもの
リスクアセスメントの記入用紙を準備します。
持っていない方はこちらの厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」からexcelファイルをダウンロードする事が出来ます。
ホームページ上でも作成出来ます。
ステップ①:リスクを特定する
とりあえず色々と危険な部分を出していきます。
自分だけでなく、他にもその現場で作業している人にも出してもらいましょう。
次のようなキーワードを見て現場を連想するのも一つの手です。
見出し(全角15文字)
- 熱源
- 回転体
- 段差
- 刃物
- 落下
- 転倒
- 重量物
- 運搬
こういったキーワードに該当しそうなところを調べていきます。
ここではあまり深く考えずにとにかく色々と書き出してみましょう。
リスク特定のポイント
ステップ②:リスクを評価する
リスクアセスメントには評価方法があります。
基本的には次の3つの評価項目から点数をつけ、その点数の合計が一定基準を超えたときに対策をとります。
3つのリスク評価項目
- 災害の程度
- 発生の確率
- 近づく頻度
評価の点数の基準は厚生労働省のホームページに載っています。
下記、引用です。
リスクアセスメントの点数表
災害の程度の点数表
重大性 災害の程度 点数 致命傷 死亡、失明、手足の切断等の重篤災害 10 重症 骨折等長期療養が必要な休業災害及び障害が残るけが 6 軽傷 上記以外の休業災害(医師による措置が必用なけが) 3 軽微 表面的な傷害、軽い切り傷及び打撲傷(赤チン災害) 1
発生の確率の点数表
可能性 内容の目安 点数 確実である かなりの注意力を高めていても災害になる 6 可能性が高い 通常の注意力では災害につながる 4 可能性がある うっかりしていると災害になる 2 ほとんどない 通常の状態では災害にならない。 1
近づく頻度の点数表
頻度 内容の目安 点数 頻繁 毎日、頻繁に立ち入ったり接近したりする 4 時々 故障、修理・調整等で時々立ち入る 2 ほぼない 立入り、接近することはめったにない 1
リスク評価
リスク
レベル合計点数 評価内容 取扱基準 Ⅳ 12~20 直ちに解決すべき問題がある
(受け入れ不可能なリスク)直ちに中止または改善する Ⅲ 9~11 重大な問題がある
(低減対策を要するリスク)優先的に改善する Ⅱ 6~8 多少問題がある
(低減対策を要するリスク)計画的に改善する Ⅰ 5以下 必要に応じリスク低減を実施する
(ただちに低減対策を要しないリスク)残っているリスクに応じて教育や人材配置をする
出典:厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/index.html
これらの基準で、見つかったリスクに対して点数付けをしていきますが、特に困るのが「災害の程度」です。
点数付けの注意点
どんな場所でも最悪は死んでしまいます。
極端な話ですが、何もない道端でつまづいただけでも、運が悪ければ死んでしまうわけです。
しかも、災害の程度が死亡だと点数が高くなり、評価基準としては絶対に対策が必要となってしまいます。
何もない道端でつまづいて転ぶのを対策するのは現実的に難しいですし、本当に対策すべきかと言われるとちょっと違いますね。
その辺を加味して、災害の程度は最も可能性が高いと思われるものにしましょう。
普通だったら道端でつまづいても擦り傷が出来るかどうか程度です。
リスク評価のポイント
- 災害の程度は最も可能性が高いと思われるものにする
ステップ③:リスクを低減する
対策については次の4つの方策があり、上位のものから優先的に行っていきます。
上のものほど効果が大きいです。
4つのリスク低減対策
- ①:本質的安全設計方策
- ②:安全防護
- ③:付加保護方策
- ④:使用上の情報
①本質的安全設計方策
本質的安全設計方策の考え方
そもそも危険な場所がなければ怪我をしない。
この考え方で対応するものになります。
例
- 機械にとがった部分があるなら、それ自体を無くしてしまう
- 手が巻き込まれたら、その瞬間に過負荷で停止させてしまう
- 故障が多い機械なら、故障を少なくする
- 手を突っ込まなくても材料が自動で出てくるようにする
この方策は危険自体が無くなるか、危険に近づかなくてもよくなるので、効果は大きいです。
しかし、すでにある設備を変える事は簡単ではありません。
とはいえ、この方策がとれるなら一番良いので、何とか見つけ出してみましょう。
②安全防護
安全防護の考え方
危険な箇所を無くすことはできない。
でも、体がそこに入らないようにすれば怪我をしない。
こういった考え方です。
例
- 回転体にカバーを設置して、手が入らない様にする。
- エリアセンサーなどで、危険な箇所に体が近づいた場合は、機械が停止する
- プレス装置などでよくある、ボタンを2つ同時に押して、押してる間だけ起動する装置
といった感じです。
③付加保護方策
付加保護方策
何かが起こった時に出来るだけ被害を小さくする
先ほどの①本質的安全設計方策、②安全防護のバックアップ的なものになります。
対策することによって怪我がなくなるわけではないですが、けがの程度が軽くなるイメージです。
例
- 非常停止装置
- ブレーカーをトリップさせる
- 空圧を圧力解放させる
- 緊急呼び出しボタンのような、他の人に知らせる機能
「もしも」の事が起こった時に力を発揮するタイプのものなので、やはり「もしも」が起こらない様にする事の方が重要です。
しかし、これはこれで命を助けられた人もたくさんいるので重要な物です。
④使用上の情報
使用上の情報の考え方
「ここにはこんな危険があるよ」と知らせるものです。
トイレ掃除中の看板に、滑って転んだ人のマークを見たことがあると思いますが、まさにあれです。
その他には、正しい使用方法について解説したものもあります。
注意しないといけないのは、この対策は結局は危険を知らせているだけです。
トイレ掃除であれば、表示があろうとなかろうと掃除中は床は滑るので、滑らないように対策するのが良いです。
でも、それが出来ないから「せめてもの対策」としてそうしているわけです。
このように、つぶしきれない対策を注意喚起させる程度のものですので、くれぐれも、「表示をして対策完了!」とは思わないようにしましょう。
ステップ④:対策後のリスクを評価する
対策が終了したら、再度リスクの評価を行います。
これで、リスクアセスメントの点数が下がって、基準以下になったら完了です。
また、このようにして安全の対策を取っていくと、リスクを特定する力がついて今まで見えなかった他のリスクが見えるようになってきます。
新しいリスクが見えたら、その都度対策を取っていきましょう。
以上でリスクアセスメントは完了となりますが、リスクアセスメントを進めていくと、どうしてもその評価や対策に注意が行きがちです。
しかし「安全のため」にやっていることを絶対に忘れてはなりません。
この対策が点数を減らす為だけのものではなく、本当に安全性が高まっているかを常に頭に入れておきましょう。
最後に
安全第一は口でいう程簡単なことではありません。
口では安全第一と言いながら、生産性を第一に考えてしまう気持ちは痛いほどよくわかります。
しかし、絶対に安全を守る!部下を守る!という気概がなければ災害を防ぐことはできません。
安全性と生産性を両立するのがあなたの腕の見せ所です。
でも、どうしても天秤にかけなければならない時は迷わず安全性を第一に考えましょう。
定期的にリスクアセスメントを行なって、より安全な職場に変えていきましょう!
その他にも安全のための手法はあります。
まずは全体像を把握することをオススメしています。
リスクアセスメントは組織的に動くものですが、全員が行っていく草の根運動的な対策はこちらです。
KYT(危険予知トレーニング)
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全員そろって元気に仕事をしましょう!
それでは、今日も一日ご安全に!